”盛った”求人条件で募集を行った場合の問題点とは(ショート記事)

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企業法務に関する相談を受けていると、ある程度似通ったご相談をお受けすることがあります。

このWEBサイトを訪問されている方におかれまして、ご参考までの情報共有として、以下記載します。

 

 

ご相談

人員不足であるため求人サイトに登録し、求人募集を行っているのですが、思うように人が集まりません。

求人サイトの閲覧数を増やすべく、採用条件を少し「盛った」記載にしようと思うのですが、何か問題はあるのでしょうか。

 

回答

「盛った」採用条件にて労働契約を締結するのであれば、問題ありません。

しかし、「盛った」労働条件で求職者を集めておきながら、いざ採用段階で当該労働条件より低い条件にて労働契約を締結しようとした場合、トラブルになる可能性があります。

また、低い労働条件にて労働契約を締結したとしても、後で「盛った」分につき差額分を支払うよう請求されてしまう恐れもあります。

 

ところで、従前までは、求人条件は労働条件ではない以上、求人条件を見て応募してきた求職者と協議し、最終的に求人条件と異なる条件にて労働契約を締結しても違法ではない、という考え方が主流でした。

また、この考え方に沿った裁判例も複数存在します。

しかし、求人詐欺ともいうべき事件が多発し、かつ求職者と事業者との交渉力格差を考えると、労働者(求職者)は本当に求人条件と労働条件との差異を受入れているのか怪しい…という状況が認識されるにつれ、上記のような考え方は通用しなくなりつつあります。

 

このような状況下で、近時話題になった事件として「マダムシンコ」事件があります(もしかすると関西ローカルかもしれませんが)。

「マダムシンコ」事件は、求人サイト記載の条件にて雇入れるつもりが無いにもかかわらず、求人サイトの閲覧数をアップさせるためにあえて異なる求人条件を掲載し、求職者が入社してきた場合、一方的に求人条件よりダウンした労働条件を記載した労働契約書を手渡していたという事件です。

不満をもった元労働者が労働審判手続きを行ったところ、裁判所は事業者に対して差額分の支払いを命じましたが、当該支払い命令に対してマダムシンコが異議を出し、通常裁判手続きとなっていました。そして、今般、裁判所はやはりマダムシンコに対して、差額分の支払いを命じる判決を出しました(なお、通常裁判で支払いを命じられた額は、労働審判で命じられた額よりも多くなったようです)。

上記の「マダムシンコ」事件以外でも、近時の裁判例は、求人条件は労働条件ではないという前提に立たないものが増えてきているようです。

 

もし情報が更新できていない事業者であれば、未だに盛った求人条件で求職者を釣り、入社の段階で本当の労働条件を開示して了解を取り付ければよいと考えているかもしれませんが、非常に危険な考え方と言わざるを得ません。

求人募集の際は、虚偽の条件を記載しないよう注意してください。

 

<2024年10月執筆>

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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